ポリティーク第6号
現代日本の地方ないし地域は軒並み、かつてない困難をつきつけられている。まず第1は、これまでの開発主導型財政の破綻による財政危機の深化である。第2は、それと並行して進んだ地域経済の疲弊である。公共事業に依存したり企業誘致に頼った地域経済再建の道は、どの地域でもほとんど見通しがたたなくなってしまった。第3は、大企業の多国籍企業化とグローバリゼーションの煽りを受けて、各地域がいわば丸裸のかたちで国際競争にさらされようとしていることである。これによって、農業や地場産業は未曾有の危機に直面している。
これらのことは、統一地方選挙を前にした地方政治に新しい条件をつくりだしているように思われる。
その第1の顕著な動きは、土建国家型の地域開発ないし開発主義的な地域動員に日本各地の将来見通しを託すことが絶望的になりつつあること、このことに多くの人々が気づき始めているということである。そのきっかけは多様である。開発主義の失敗が歴然とした環境破壊の姿で明確になったところでは、「脱ダム宣言」に典型をみるように、環境保全をキーワードにして土建国家型自治体運営に別れを告げる動きが活発になってくる。開発優先の地方財政の破綻が明白となり、そのツケをあげて住民の福祉にまわそうとする自治体リストラ優先の地域では、住民が行革そのものにノーの声をあげ始めている。
第2は、日本を牛耳る大企業体制=財界と地域経済のギャップが拡大し、多国籍企業化した財界が全国の草の根保守を形成してきた中間層を統合することが困難になっていることである。これは、旧来の「輸出主導プラス公共事業依存」の経済成長のかたちが崩れてきたためであろう。いまでは、財界のイニシアティブで地域が踊るようなことはまず期待できない。一言でいえば、戦後保守体制の地域的基盤が萎縮しているのである。
第3は、こと地方政治の舞台では、東京石原都政のような一部をのぞくと、新自由主義的改革路線が小泉構造改革ほどの人気を集めないということである。それは、新自由主義的構造改革が多国籍企業本位であり、グローバリズムにそって、地域を衰退させるものにほかならないからである。これは、言いかえると、土建国家型の伝統的支配構造が、地域を舞台にすると、そう簡単には小泉構造改革型の支配構造に転換できえないことを物語っている。
「地方が変わる」「地域から日本を変える」というチャンスがここに生まれる。この可能性はいま、自然環境や地域の歴史・文化に目を向けること、地域経済を本腰いれて立て直すこと、地域の福祉・教育を発展させること、地域からサステナビリティ(持続可能性)を追求することなどを契機にして、徐々にではあるが全国各地域に広がりつつある。
今回の本誌特集は、こういう状況をにらんで編集されたものである。特集の構成は、まず第1に地域・自治体をとりまく大状況を正確にとらえること、第2に地域の内発的な動きを地域経済の再生や住民運動の主体形成の面から明らかにすること、第3に自治体の役割やあり方をめぐる争点を整理しておくことに向けられている。これら以外に、当初は地方政治の動向、自治体行財政改革をめぐる争点等をとりあげる予定であったが、悪条件が重なり今回は割愛せざるをえなかった。
統一地方選挙を前にした日本の各地域では、大きくいうと、分権化の流れにそった国・自治体の関係の再編成、市町村合併に代表される自治体の仕組みそのものの見直し、地域経済や地域コミュニティの将来展望、自治体内部におけるリストラ策や行政評価等で大揺れの状況にある。いま一つの地域の問題は、その地域自身の問題にとどまらず、その他の地域のそれに連動する。地域の環境保全、地域経済の見通し、ナショナル・ミニマムと地方行政の関わりなどは、このことをよく示している。したがって、各地域から当該地域自身と日本を変えていくためには、地域全体を包括する動きを視野にいれ、各地域の経験から学んでいかなければならない。本誌特集がその一助となれば幸いである。[二宮厚美]
論点1……小泉構造改革のなかの地域・自治体
論点2……自治体をめぐる政策的論点
論点3……新福祉国家と第二期革新自治体の展望
行方久生 + 二宮厚美 + 後藤道夫
特集 論説
分権化時代の自治体改革をめぐる争点……二宮厚美
多国籍企業支配のなかの地域経済の選択……岡田知弘
地域をつくる学び」と地域的公共圏の形成……鈴木敏正
連載
【日本政治・経済の現在】小泉構造改革と対抗する現代日本の民主主義(二宮厚美)
ブックレビュー
【現代日本を読む】内発的発展論の展開と課題(横山哲朗)
【社会科学の古典を学ぶ】資本主義的生産様式と住宅問題
――エンゲルス『住宅問題』と現代日本(井本正人)