ポリティーク第10号

ポリティーク第10号

特集=現代日本のワーキング・プア

著者 渡辺治
二宮厚美
後藤道夫
中西新太郎
木下武男
ジャンル ■社会・労働・法律
出版年月日 2005/09/20
ISBN 9784845109432
Cコード 3036
判型・ページ数 A5・224ページ
定価 2,420円(税込)

この本に関するお問い合わせ・感想





「ワーキング・プア」は、最低限度の消費生活を営むにたる所得以下の勤労世帯を指す言葉である。1990年代後半から日本型雇用の解体が急速に進み、雇用条件と賃金水準は大幅に下落し、くわえて、税制と社会保障の「構造改革」は低所得層の負担を増大させた。ワーキング・プアは急増し、所得が生活保護基準以下の世帯は、勤労世帯全体の2~3割程度と推測できるまでになっている。

 ワーキング・プアの急増をくいとめるはずの賃金規制と最低限生活保障措置は、開発主義国家体制(開発主義国家+企業主義統合)の下で、特殊な「底抜け状態」を呈していた。それにくわえ、日本の労働組合が争議権を武器とした交渉能力を全体として失ってから久しい。こうした状況の下で、「構造改革」が行なわれたため、ヨーロッパ諸国に比して、ワーキング・プア急増への社会的抑止力はきわめて脆弱であった。

 実際にはこれまでも、ワーキング・プアは大量に存在した。しかし、高度経済成長後半期以降、その存在は隠蔽・抑圧され、大きな社会問題となることは稀であった。今日のようにワーキング・プアの急増がだれの目にも明らかになると、その大量存在の認知は、現在の社会システムに巨大なインパクトをもたらすことになる。

 まず、多数の勤労者世帯が、生活保護制度等があるにもかかわらず、国民としての最低生活水準を実現できていないということは、本来、あってはならないことのはずである。現在の政治環境の下では、その社会問題化は「生活保護基準が高すぎる」という逆の反応を引き起こし、それに連動して、労働不能人口への保障基準を大幅に引き下げる圧力となる。生活保護基準の引き下げはすでにはじまっており、公費医療制度や障害者福祉も大幅に後退しはじめた。

 ワーキング・プアの急増は、第二に、「暮らせる賃金」という社会常識の崩壊を意味し、経営者の社会的責任の感覚を後退させるため、進行中の賃金水準破壊をいっそう促進する。

 第三に、ワーキング・プアは社会的に未組織状況であることがほとんどであるため、その拡大は、社会的対抗力・規制力の急落をもたらす。「砂のような国民」部分が増加し、「低所得階層」が固定化され、階層格差はより構造的に増大する。犯罪や家庭崩壊など、社会的貧困の蓄積による矛盾は拡大し、社会統合危機がもたらされる。

 第四に、階層格差の拡大と社会統合危機の増大は、上層国民を社会秩序維持の中心に押しだし、新たな「上層社会統合」を促進することとなろう。ワーキング・プアの急増は、「構造改革」による社会変動の構造的焦点なのである。

 本特集は、ワーキング・プア急増の実態とその背景を、労働力市場、勤労者の生活構造、および社会保障制度の諸側面から明らかにするとともに、それがもたらす社会的影響をさぐり、ワーキング・プア急増を抑止する、あるいはワーキング・プアが主体となる新たな運動と政策の課題を考えることを目的としている。

 後藤道夫論文「現代のワーキング・プア── 労働市場の構造転換と最低限生活保障」は、ワーキング・プアの規模を部分的に推計するとともに、ワーキング・プア急増の背景となっている最低生活保障の「底抜け構造」を、それが形成された高度経済成長期にさかのぼって検討し、現代のワーキング・プアをとらえる歴史的視点を提示する。

 伍賀一道論文「雇用と働き方から見たワーキング・プア」は、大量のワーキング・プアを生み出す現在の労働市場の状態を、非正規雇用、なかでも派遣、業務請負に焦点を当てて分析し、国際的・国内的な労働基準の再確立の必要を提起している。

 唐鎌直義論文「中年家族持ちワーキング・プアの生活と社会保障改革」は、総務省「家計調査」を用い、勤労者世帯の第�・10分位階層の収入・消費実態の変化に焦点を当てて、勤労所得の低下、「社会的固定費」による圧迫、勤労者負担率の上昇による「家計破綻の瀬戸際」状況を描き出し、「ワーキング・プアがワーキング・プアでいられなく事態」の到来を警告する。

 布川日佐史論文「ワーキング・プアと最低生活費(貧困)基準」は、最低生活基準にかかわる諸論点をつっこんで検討し、今回の「生活保護の在り方に関する専門委員会」の議論が、「国民の一般的な生活様式」を基準とする80年代の考え方を捨て、非常な低所得層(第3~第5・50分位)の消費水準を基準とする考え方で行なわれたことの問題性を指摘する。

 木下武男論文「ワーキング・プアの増大と『新しい労働運動』の提起」は、労働社会の二極分化が進行している現時点で、企業別の組織形態をとってきた戦後労働組合運動が最終的後退局面にあることをふまえ、低処遇正規・非正規からなるワーキング・プアを、地域ごとの産業別・職種別結集をもった、個人加盟の新しい労働組合に組織することの重要性を主張する。[後藤道夫]
特集 論説
現代のワーキング・プア―労働市場の構造転換と最低限生活保障……後藤道夫
雇用と働き方から見たワーキング・プア……伍賀一道
中年家族持ちワーキング・プアの生活と社会保障改革……唐鎌直義
ワーキング・プアと最低生活費(貧困)基準……布川日佐史
ワーキング・プアの増大と「新しい労働運動」の提起……木下武男

インタビュー
【現代社会運動の経験】個人加盟ユニオンの現在、そして未来(名取学)

連載
【地域の現場から】中越大震災地域の復興をめぐる二つの道―人間復興か構造改革か(岡田知弘)
【思想の現在】世界の貧困、貧困の世界(渡辺雅男)

ブックレビュー
【現代日本を読む】生活賃金運動が提起する論点を探る(居城舜子)
【社会科学の古典を学ぶ】シティズンシップ論と福祉国家の再編―日本における生存権理念の再構築にむけて(伊藤周平)

ご注文

定価2,420円(税込)

シェアする

このエントリーをはてなブックマークに追加

同じジャンルの商品

おすすめ書籍

お知らせ

一覧

2024.04.18 PR

高橋輝世(著)『宮澤喜一の足跡』が中国新聞の書評に掲載されました。

2024.04.05 PR

『危機の時代に立ち向かう「共同」の教育』が日本教育新聞で紹介されました

2024.03.26 PR

高橋輝世著『宮澤喜一の足跡』が「日刊ゲンダイ」3月25日号で紹介されました

2024.03.08 NEWS

労働法律旬報のデジタル版を創刊しました!

2024.03.04 PR

『布施辰治を語り継ぐ』『中村哲という希望』が河北新報に掲載されました

2024.03.04 PR

田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』が「カミオン」4月号に掲載されました

2024.03.04 PR

大川 豊著『大川総裁の福祉論!』が「ZAITEN」4月号に掲載されました

2024.03.04 PR

後藤秀典著『東京電力の変節』が「ジャーナリスト」(791号)に掲載されました

2024.02.13 正誤

【訂正】労旬2049号(2024年2月上旬号)

2024.02.05 PR

辻 浩 著『〈共生と自治〉の社会教育』が『教育学研究』で紹介されました

2024.02.02 NEWS

第69回読書感想文コンクールにて『人がつくった川 荒川』の作文が受賞しました

2024.01.30 イベント

田中洋子編著『エッセンシャルワーカー』の出版記念イベントを開催します!

2024.01.22 PR

『高校生も法廷に! 10 代のための裁判員裁判』が日本教育新聞で紹介されました

2024.01.22 PR

「しんぶん赤旗」に『「わかり合えない」からはじめる国際協力』が紹介されました。

2024.01.10 PR

宮崎駿他著『教育について』が「東京新聞」で紹介されました

2024.01.10 PR

石巻日日新聞にて森正著『人道の弁護士・布施辰治を語り継ぐ』が紹介されました

2024.01.05 PR

元日の「しんぶん赤旗」に新年の書籍広告を掲載しました

2024.01.05 PR

『エッセンシャルワーカー』が「前衛」2024年2月号書評欄で紹介されました

2024.01.05 PR

長谷川敦著 『ようこそ! 富士山測候所へ』が「しんぶん赤旗」で紹介されました

2023.12.28 PR

フジテレビグループのFCI制作の番組で『大和コロニー』が紹介されました

2023.12.27 NEWS

冬季休業のお知らせ

2023.12.21 PR

「週刊エコノミスト」の書評欄に『エッセンシャルワーカー』が掲載されました

2023.12.21 PR

『人道の弁護士・布施辰治を語り継ぐ』が岩手日報の「風土計」紹介されました

2023.12.21 PR

「週刊金曜日」のコラムで『佐高信評伝選』が紹介されました

2023.12.14 PR

「日刊ゲンダイ」書評欄にて『佐高信 評伝選 7巻』が紹介されました

2023.12.12 PR

『多文化共生社会を支える自治体』の書評が「文化連情報」12月号に掲載されました

2023.12.08 PR

『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々』が「赤旗」に掲載されました

2023.12.05 PR

『東京電力の変節』の書評記事が「経済」1月号に掲載されました

2023.12.05 PR

『東京電力の変節』著者インタビューが「週刊東洋経済」(12/9)に掲載されました

2023.11.29 PR

阿久澤麻里子著『差別する人の研究』が聖教新聞で紹介されました

2023.11.24 PR

『高校生も法廷に! 10 代のための裁判員裁判』が大學新聞で紹介されました

2023.11.15 正誤

【訂正】労旬2043号(2023年11月上旬号)

2023.11.07 PR

後藤秀典著『東京電力の変節』の書評が「前衛」12月号に掲載されました

2023.11.07 PR

「日刊ゲンダイ」に『首都直下大地震 国難災害に備える』の書評が掲載されました

2023.11.07 PR

『高校生も法廷に! 10 代のための裁判員裁判』が東京新聞で紹介されました

2023.11.02 PR

本田一成著『メンバーシップ型雇用とは何か』が図書新聞で紹介されました

2023.10.31 PR

日刊ゲンダイにて『東京電力の変節』(選者:佐高信さん)の書評が掲載されました

2023.10.27 PR

新潟日報に『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫という人々』の書評が掲載されました

2023.10.25 PR

『ようこそ! 富士山測候所へ』が朝日中高生新聞の書評欄で紹介されました

2023.10.23 PR

『新社会学研究』№8に『私が原発を止めた理由』の書評が掲載されました

2023.10.23 PR

『プロだけが知っている届くデザイン』の書評が「広報」10月号に掲載されました

2023.10.23 PR

朝日新聞(10/21)にて樋口英明さんのインタビュー記事が掲載されました

2023.10.17 PR

日本教育新聞(10/16)に『教員不足クライシス』の書評が掲載されました

2023.10.17 PR

『10代のための裁判員裁判』が「読売中高生新聞」(13日付)で紹介されました

2023.10.04 NEWS

【旬報社のメールマガジンに登録しませんか?】

2023.10.03 PR

『差別する人の研究』が「解放新聞」(10/5付)で紹介されました

2023.10.03 PR

『首都直下大地震 国難災害に備える』が「コロンブス」10月号で紹介されました

2023.09.29 PR

『佐高信 評伝選 6 』の書評が「ZAITEN11月号」に掲載されました

2023.09.29 PR

『東京電力の変節』著者インタビューが「ZAITEN 11月号」に掲載されました。

2023.09.21 PR

『僕の仕事は、世界を平和にすること。』が「ふぇみん」で紹介されました。

2023.09.15 PR

「建築技術」10月号に『最新図説 脱炭素の論点 』の書評が掲載されました

2023.09.14 PR

『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々』が「週刊金曜日」で紹介されました

2023.09.13 PR

川崎哲『僕の仕事は、世界を平和にすること。』書評が「文化連情報」に掲載されました

2023.09.05 イベント

吉野なお 著 『コンプレックスをひっくり返す』出版記念イベントを開催します!

2023.09.05 PR

『女性のひろば』10月号にて『コンプレックスをひっくり返す』が紹介されました

2023.08.30 PR

『ウシのげっぷを退治しろ』が「日本農業新聞」で紹介されました

2023.08.24 正誤

【訂正】『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』に誤りがございました

2023.08.24 PR

「日本農業新聞」で『最新図説 脱炭素の論点 2023-2024』が紹介されました

2023.08.18 PR

『自由と正義』8月号で『出所者支援ハンドブック』が紹介されました

2023.08.07 正誤

【訂正】『武力によらない平和を生きる』に誤りがございました

2023.07.18 PR

日弁連「自由と正義」7月号に『武力によらない平和を生きる』が紹介されました

2023.07.18 NEWS

夏季休業のお知らせ

2023.07.13 PR

「新婦人しんぶん」で『コンプレックスをひっくり返す』吉野なおさんが紹介されました

2023.07.11 PR

長谷川 敦 著『人がつくった川・荒川』が「文化連情報」7月号で紹介されました

2023.07.07 PR

「新エネルギー新聞」(7/3)に『最新図説 脱炭素の論点』の書評が掲載されました

2023.06.26 PR

『僕の仕事は、世界を平和にすること。』が「赤旗」(25日付)で紹介されました

2023.06.09 PR

『最新 ネットのキーワード図鑑』が「文化連情報」2023年6月号で紹介されました

2023.06.06 PR

『武力によらない平和を生きる』が『民主法律時報』5月号で紹介されました

2023.05.29 正誤

【訂正】労旬2032号(2023年5月下旬号)

2023.05.15 PR

『チャイルド・デス・レビュー』が5月14日付の「しんぶん赤旗」で紹介されました

2023.04.26 NEWS

『人がつくった川・荒川』が読書感想文全国コンクールの課題図書に選ばれました!

2023.04.26 PR

『言いたいことは山ほどある』が4月23日付の「しんぶん赤旗」で紹介されました

2023.04.11 正誤

【訂正】労旬2027号(2023年3月上旬号)

2023.03.27 PR

『向坂逸郎 著作年表・裁判記録』の書評が「大原社会問題研究所」に掲載されました。

2023.03.13 PR

大脇雅子著『武力によらない平和を生きる』が「週刊 読書人」で紹介されました。

2023.03.06 PR

『子どもと読書』2023年3・4月号で弊社の書籍が紹介されました。

2023.03.06 PR

『スポーツ根性論の誕生と変容』が「東京人」4月号の書評欄にて紹介されました

2023.02.28 PR

『チャイルド・デス・レビュー』が「女性のひろば」4月号で紹介されました。

2023.02.27 PR

『福島の記憶』飛田晋秀さんの講演会・チャリティーライブが3月2日に開かれます。

2023.02.24 PR

『東電役員に一三兆円の支払いを命ず!』が「週刊金曜日」で紹介されました

2023.02.16 PR

『ウシのげっぷを退治しろ』著者の大谷智通さんが日刊ゲンダイで紹介されました

2023.02.14 NEWS

『わたしが障害者じゃなくなる日』が国際児童図書評議会の選定図書に選ばれました

2023.02.03 PR

『チャイルド・デス・レビュー』が月刊「クーヨン」で紹介されました

2023.01.19 PR

『ウシのげっぷを 退治しろ』が農業共済新聞で紹介されました

2023.01.19 PR

『世田谷・大平農園けやきが見守る四〇〇年の暮らし』が日本農業新聞で紹介されました

2023.01.10 PR

「文化連情報」2023年1月号に弊社の書籍が紹介されました。

2022.12.26 PR

『戦後革新の墓碑銘』が「大原社会問題研究所雑誌」No771で紹介されました

2022.12.26 PR

SLA 全国学校図書館協議会・選定図書に3書名選ばれました。

2022.12.21 PR

樋口英明さん出演『原発を止めた裁判長』の東京上映のお知らせです。

2022.12.19 PR

『東電役員に一三兆円の支払いを命ず!』が日刊ゲンダイの書評で紹介されました

2022.12.13 PR

『統一教会との闘い』が12月11日の「しんぶん赤旗」の書評欄で紹介されました

2022.12.09 PR

『うつには祖母がよく効きます』の書評が「文化連情報」12月号に掲載されました

2022.12.09 PR

12月6日の「夕刊フジ」に『佐高信 評伝選』の書評が掲載されました

2022.12.09 PR

11月29日の日刊ゲンダイに『統一教会との闘い』の書評が掲載されました。

2022.12.09 NEWS

『クジラのおなかからプラスチック』が選書センター大賞5類のトップに選ばれました!

2022.12.05 PR

「日本経済新聞」に『ウシのげっぷを退治しろ』小林泰男先生の記事が掲載されました

2022.12.05 PR

しんぶん赤旗に『統一教会との闘い』出版記念シンポジウムが紹介されました

2022.12.05 PR

12月5日のしんぶん赤旗で『渡辺治著作集 第Ⅰ期』ついての記事が掲載されました

2022.12.01 PR

『私が原発を止めた理由』著者の樋口英明さんの講演会が12月10日に開催されます

2022.11.28 PR

『児童養護施設という私のおうち』著者の田中れいかさんが毎日新聞で紹介されました

2022.11.24 NEWS

こうのみさと著『うつには祖母がよく効きます』は一部noteで試し読みができます!