教室で学ぶワークルール
放送大学教授。NPO法人・職場の権利教育ネットワーク代表。北海道大学名誉教授、北海道労働委員会会長、北海道地方最低賃金審議会会長、日本労働法学会元代表理事。
主な著書に、『労使関係法における誠実と公正』、『成果主義時代のワークルール』、『労働組合活用のルール』、『15歳のワークルール』、『ワークルールの基礎』(旬報社)、『不当労働行為救済の法理論』(有斐閣)、『不当労働行為の行政救済法理』、『労働組合の変貌と労使関係法』(信山社)、『不当労働行為法理の基本構造』(北海道大学図書刊行会)、『職場における自立とプライヴァシー』(日本評論社)など。
はじめに―ワークルールという言葉を知っていますか
これから社会に出るキミたちへ
これから社会に出て働こうとするキミたちは、いまの社会をどのように感じているのでしょうか。出口のない息苦しさや、将来への不安をつのらせる人も多いだろうと思います。とりわけ、就職のことを考えると、すぐ先の生活プランができないだけではなく、10年後の自分もイメージできない状態でないでしょうか。「いい大学からいい会社へ」という人生コースは必ずしも人の幸福を意味しませんが、ではどうしたらいいのかといわれると答えに困ります。
キミたちが直面する就職の現状をみてみると、正社員(このことば自体が差別感を助長していますが)として就職することは簡単ではありません。多くはパートなど雇用関係が不安定な非正規というかたちでしか仕事につけない状況です。また、たとえ正社員として就職できたとしてもさまざまな問題に直面します。長時間労働にともなう過労死や、ハラスメントによる「うつ」などのメンタル問題です。さらに、会社に勤め続けても、かつてのように賃金が上がっていくわけでもありません。雇用の不安定さや労働条件の低下などを見ると、ますます非正規と正規とのボーダーがはっきりしなくなっています。
とはいえ、多くの人は働かなければ生活していけません。当面は親にパラサイト(寄生)することができても、親がいつまでも元気でいるわけでありません。自分で生活し、家族を持ち、次の世代に社会をつなげる必要があります。働くことを避けてはいられないのです。憲法27条は「勤労」を国民の義務としていますし、国も若い人たちの雇用の実現や勤労観の育成に本気で乗り出しています。
ところが、社会人として働きだす前に、職場でのワークルールについてはほとんど教えられていません。公民の授業では、受験レベルの表面的な知識しか教えられておらず、ワークルールの意味や使い方までは深められていません。たしかに、新学習指導要領では、法教育やルールについての教育も重視されはじめています。しかし、ワークルールについてはそれほどではありません。また、キャリア教育が必要だとの議論は盛んですが、どのようにキャリアを形成し資格を獲得するかが中心であり、働くさいのルールについてはほとんど関心を持たれていません。むしろ権利を主張すると就職に困るとさえ思われているのではないでしょうか。
働くことが国民の義務ならば、安心して働き続けるために必要なワークルールを身につけておくべきでしょう。本来、ワークルール教育は国の責任ですが、現状では自分たちで学んでいくしかありません。
第1部 ワークルールの基礎
第1章 働くことを考える
第2章 労働条件はどのように決っているか
第3章 労務管理とワークルール
第4章 法律的な考え方
第2部 ワークルールの実際
第5章 入社までの過程
第6章 労働契約
第7章 自分らしさを守る
第8章 労働時間
第9章 賃金の確保
第10章 労働災害
第11章 雇用の終了
第12章 有期雇用の更新拒否
第3部 ワークルールを生かす
第13章 労働相談の仕方
第14章 労働組合を利用する
著者からのメッセージ