日本の賃金を歴史から考える

日本の賃金を歴史から考える

賃金とはどうあるべきか。賃金についての考え方の変遷を時代的背景とともに明らかにし、賃金の重要性を問い直す。初心者から読める

著者 金子良事
ジャンル 単行本
■社会・労働・法律
■社会・労働・法律 > 労働
出版年月日 2013/11/01
ISBN 9784845113378
Cコード 0036
判型・ページ数 4-6・208ページ
定価 本体1,500円+税

この本に関するお問い合わせ・感想

金子良事(かねこ りょうじ)
1978年生まれ。経済学博士。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。専門は労働史、社会政策史。主な著作に「戦時賃金統制における賃金制度」(『経済志林』80巻4号)、「戦前期、富士瓦斯紡績における労務管理制度の形成過程」(博士論文)がある。東日本大震災以降、大槌町・釜石市を中心に復興支援活動を続ける。現在は法政大学大原社会問題研究所兼任研究員。

「賃金論は何よりも生活の問題である」
 小池和男『賃金』(ダイヤモンド社、1966年)は印象的な一行からはじまる。賃金を生活の糧とする雇用労働者が増大し、彼らの賃金が自営業者や農業労働者の所得にも影響を与えるようになった。そのような時代において賃金はたしかに国民全体の生活にかかわる一大トピックであった。半世紀近くたった現在でも相変わらず、賃金は人々の生活を支えつづけているし、労使交渉における春闘も重要な年中行事でありつづけているが、1970年代以降、日本で福祉国家化が本格的に志向されるようになると、生活問題の範囲は拡大し、賃金はそれまでのようにかならずしも生活問題の筆頭にあがらなくなってきた。迫りくる高齢化社会において介護などがホット・トピックになっていったからである。そして、いつしか賃金が議論の中心になることが少なくなってしまった。しかし、生活問題が広範化したといっても賃金の重要性が減じたわけではない。では、今、賃金の重要性を再認識するためにはどうすればよいのか。本書は、その答えを歴史のなかに求める一つの試みであり、労働者はもちろん、なんらかのかたちで賃金に関心がある方、たとえば企業で労務管理を担当する方、労働組合関係者、賃金コンサルタント、近い将来賃金を生活の糧として働く学生さんなどと広くその思いを共有したいという願いを込めて書かれた。
 なぜ、あえて歴史を学ぶのだろうか。歴史を面白いと感じて下されば、そこから何かがはじまる。難しく考えたり、きちんと理解しなければと力んだりする必要はない。とはいえ、歴史を学ぶ意義というのはしばしば問われる。歴史研究者が現状を研究する人の前で報告すると、「その研究は現実にどう役立つのか」という質問を受けることがある。そういうやり取りをみるたびに、私は歴史研究者に同情してきた。なぜなら、調査であれ、理論であれ本当に優秀な現状を研究する人ならば、自分のもっている現状の問題意識と報告との共通点を照らし合わせて新しい論点を提供するので、そこから現状研究と歴史研究の対話がはじまるのであるが、そういう生産的な質問をする研究者は少ないからである。現場で実践に生きる皆さんも、実践的な問題意識をもって読んでいただければ、そこから新しい問いが生まれると思う。現実に対する問題意識と対話する意思がなければ、何も生まれない。それはあらゆる立場において同じことである。まずは気軽に読んでいただきたい。
 本書には実務的知識はほとんど書かれていない。また、統計表がまったくない賃金の本は多分、本書が最初で最後であろう。本書では発想を豊かにするために、賃金そのものの多様な考え方をできるだけ紹介し、さらにその背景にある社会の歴史の説明に多くを割いている。とくに賃金の重要な二つの軸である、企業にとっての生産と労働者にとっての生活に焦点を当て、生産管理の歴史や家計調査などの社会福祉の歴史にも踏み込んで記述をしている。近年、新自由主義と市場主義などが混同され、通俗的に効率性の追求が民間企業に事業を任せることであるというような理解さえも見受けられるが、本書を読めば、効率の追求が1980年代以降の話ではなく、19世紀以来、社会のありとあらゆる分野に浸透していることも理解できるだろう。その意味では賃金に関心のある方だけでなく、社会政策、社会福祉などに関心をもつ方にも本書を読んでいただきたい。
 また、本書は予備知識のない初学者にも通読していただけるように、基本的な知識の説明も含まれている。ただし、いわゆる伝統的な賃金や労働問題、労使関係のテキストにあるような構成にはなっておらず、そういう勉強をされた方も驚くような展開をご用意してある。
願わくば、本書がかつての熱い賃金の時代を現代に呼び起こすきっかけにならんことを。そして一人ひとりがめざすべき賃金をじっくり考えるきっかけにならんことを。

推薦!

このタイトルは過小広告!
賃金だけでなく日本の雇用の全体像を歴史を軸に描き出した名著
濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構 労使関係部門統括研究員)

賃金の歴史は浅い。極めて意義深い問いを我々労働者に投げ掛けている。
被災地と賃金の復興が重なりあう書でもある。
須田 孝氏(連合・総合労働局長)
はじめに
第1章 二つの賃金
仕事と報酬
雇用における報酬の貨幣化の発生
工場労働者の登場
近世から近代への連続性は日本だけのことか?
工場法の世界
報酬にたいする二つの考え方―感謝報恩と受取権利
賞与金(ボーナス)の一つの系譜
富士紡の利益分配制度
 コラム1 報酬の金銭化

第2章 工場労働者によって形成される雇用社会
日本近代の二つの変革
生活面での変革
工場のなかの社会
株式会社制度の定着
株式会社における賃金制度
株式会社における身分
工場労働者の規律をつくる
仕事の直接的な対価という性格が強かった職工の賃金
 コラム2 ブルーカラーとホワイトカラーの協力体制

第3章 第一次世界大戦と賃金制度を決める主要プレイヤーの登場
賃金制度を決める主要プレイヤー
鈴木文治による友愛会の結成
生計費と賃金の関係
人事部と経営(賃金)コンサルタントの登場
「管理の科学」の形成
科学的管理法の登場
能率技師とソーシャル・ワーカー
科学的管理法の導入と福利厚生制度の充実
科学的管理法の成果と賃金
 コラム3 近代的労務管理と安全運動

第4章 日本的賃金の誕生
「日本的賃金」
ソーシャル・ダンピング論
低賃金論としての日本の賃金
戦時日本的賃金論
戦時日本的賃金論の前提1―「能率」思想
戦時日本的賃金論の前提2―能率賃金≒科学的管理法の探求
戦時日本的賃金論の前提3―生活賃金
賃金カーブによる年功賃金―「標準賃金」
日本的賃金論
 コラム4 賃金とプロパガンダ

第5章 基本給を中心とした賃金体系
  「賃金体系」
異なる時代の前提条件
賃金体系に核(コア)である基本給
第二改革期の変化1―出来高賃金から基本給+能率給へ
戦前の賃金形態―時間による固定給と出来高賃金
常傭給あるいは戦前の基本給?
固定給における査定
複線的な賃金体系の成立
臨時産業合理局『賃金制度』の改革案
第二改革期の変化2―日給月給と月俸の融合
職務給から職能資格給へ
階級(身分)制度から職能資格制度への転用
ブロードバンディング(broad banding)
労働組合のグローバル化の必要
コラム5 査定制度と公平性

第6章 雇用類型と組織
日本的雇用の議論の前提
日本的雇用論の派生形であるメンバーシップ型雇用論
トレード型雇用とジョブ型雇用
伝統を引き継いでいるヨーロッパのトレード型、新しい日本のメンバーシップ型
トレード・ユニオニズム
変容したプロフェッション
経済学の伝統的な二つの賃金仮説
人的資本論
内部労働市場と外部労働市場
組織と信用
資格制度
 コラム6 人的資本と組織の経済学

第7章 賃金政策と賃金決定機構
賃金政策と賃金決定機構との距離
賃金統制のはじまり―熟練工の移動防止と高賃金の抑制
価格等統制令と賃金臨時措置令の不備
第二次賃金統制令と「賃金総額制限方式」―統制から外されたもの
労働運動の興隆と戦後の賃金決定方式の誕生
官公庁の機構改革と600円賃金
労使交渉による賃金ベース協定
公務員の賃金ベース―所得政策と参照水準
物価と賃金―消費者物価指数(CPI)の登場
生活給賃金から能率給賃金へという転換
個別賃金要求方式の登場
定期昇給とベース・アップ
春闘のはじまり
春闘の展開
生産性と賃金
計画経済の時代
生産性基準原理と所得政策
熊谷委員会の所得政策に込められた思想
一九七五年春闘の帰結―日本型所得政策の誕生と戦後賃金政策の終わり
長期賃金計画と逆生産性基準原理
 コラム7 大きなストーリー

第8章 社会生活のなかの賃金
マタイ書20章
完全雇用政策
賃金ではなく所得である理由
三つの賃金格差の解消?
社会問題にされなかったもう一つの賃金格差―男女別賃金格差
社会問題にならなかった低賃金
生活の変貌と農業の縮小
低収入でもニーズがある請負仕事
最低賃金法と家内労働法
請負と雇用―労働者性の有無
賃上げだけを求めていた時代の終焉と個別賃金要求方式の興隆
主婦パートの興隆
労働条件を切り下げる頑迷なボランティア精神
標準世帯を前提とした社会保障―103万円の壁と130万円の壁
工場法から男女雇用機会均等法まで
平等への道―ペイ・エクイティと職務分析
女性の非正規化と男性への波及
生活賃金の難しさ
 コラム8 絶対的な正しさと相対的な正しさ

賃金を学習を進めるためのリーディング案内
あとがき

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