教育プレゼンテーション
目的・技法・実践
渡部 淳(わたなべ・じゅん)
日本大学文理学部教授(教育実践研究、教育内容・方法論) 1951年秋田県生まれ。2006年に「獲得型教育研究会」を創設。日韓米の高校生が演劇的発表を創り出す「グローバル・クラス」など、数々の実験的プログラムの運営に携わり、教育における演劇的手法の可能性を国際的な視野で研究している。著書に、『国際感覚ってなんだろう』(岩波ジュニア新書)、『教育における演劇的知』(柏書房/第42回演劇教育賞・特別賞)、『中高生のためのアメリカ理解入門』(編著、明石書店)、『教師 学びの演出家』(旬報社)、『大学生のための 知のスキル 表現のスキル』(東京図書)、『教育方法としてのドラマ』(J. ニーランズと共著、晩成書房)などがある。
獲得型教育研究会
「参加型アクティビティの体系化」と「教師研修プログラムの開発」を目的として2006年に創設。小学校から大学までの教師など50名で構成。会員の居住地は、北海道から沖縄、また海外に及ぶ。「会員=“獲得研シリーズ”の執筆者」という実験的な性格から、これまで会員数を限定してきたが、創設10周年を機に、会員数を徐々にふやす方向にむかっている。
シリーズ本として、第1巻『学びを変えるドラマの手法』、第2巻『学びへのウォーミングアップ』を旬報社から刊行、この『教育プレゼンテーション』はシリーズ第3巻にあたる。またシリーズ本とは別に、研究書『教育におけるドラマ技法の探究』(明石書店)などを刊行している。出版活動と並行して、研究成果の普及と会員の自己研修のために、全国各地で「あかり座」公演(公開授業+ワークショップ)を展開中である。代表:渡部淳、ホームページ:http://www.kakutokuken.jp/
[執筆者]
青木幸子(昭和女子大学准教授)
小菅望美(群馬県渋川市立豊秋小学校教諭)
小松理津子(秋田県立秋田明徳館高等学校教諭)
杉山ますよ(早稲田大学講師)
住川明子(跡見学園中学高等学校副校長)
関根真理(啓明学園中学高等学校国際交流コーディネーター)
仙石桂子(四国学院大学専任講師)
高尾隆(東京学芸大学准教授)
田ヶ谷省三(立川市生涯学習指導協力者)
武田冨美子(立命館大学准教授)
*辻本京子(文化交流工房)
中野貴文(東京女子大学准教授)
*初海茂(八王子市立松木中学校・日本大学講師)
早川則男(中村高等学校教諭)
林久博(成蹊小学校教諭)
藤井洋武(日本大学・東海大学・川崎市立看護短期大学講師)
藤田真理子(北海道大谷室蘭高等学校教諭)
藤牧朗(目黒学院高等学校教諭)
藤光由子(西オーストラリア州教育省教育アドバイザー)
槇野滋子(岡山県立津山商業高等学校校長)
Gehrtz三隅友子(徳島大学教授)
三宅典子(岡山市立後楽館高等学校教諭)
*宮崎充治(桐朋小学校教諭)
室中直美(国際文化フォーラム)
*両角桂子(埼玉県立所沢北高等学校教諭)
八木ありさ(日本女子体育大学教授)
吉田真理子(津田塾大学教授)
*和田俊彦(跡見学園中学高等学校教諭)
渡辺貴裕(東京学芸大学准教授)
*=編集委員 (所属は2015年8月現在)
私たちは、新しい時代を生きる市民の共通教養の中核に、参加型アクティビティの習得を据えたいと考えている。そして教育プレゼンテーションを「自立的学習者=自律的市民」を育てる学習ツールの一つとして位置づけている。
自立的学習者というのは、知識はもちろん豊かな学びの経験をもち、そして学びの作法も身につけた学習者のことだ。こうした学習者の形成には、プレゼンテーション、ディスカッション/ディベートなど、アクティビティを用いた参加・獲得型の学習活動の経験が不可欠である。さらにいえば、このような学習者像は、グローバル化した世界で求められる自律的市民の姿と重なってくるものだ。
いま日本を「プレゼン・ブーム」が席巻している。ただ、これまで刊行された出版物は、どちらかといえばビジネス・プレゼンテーションに関連したものが多く、管見の限り、教育の場で行われるプレゼンテーションを総合的に扱う本はなかった。おそらく本書の刊行が、教育プレゼンテーションの目的、技法、実践事例を総合的に扱ったはじめての試みと思われる。
本書は「アクティビティ・ブック」と「実践事例集」という2つの性格を併せもった本である。この本には3つの特徴がある。
第1の特徴は、30種類のプレゼンテーション技法を収録した「アクティビティ・ブック」だという点にある。とりわけ工夫したのは、30の技法を、ことば、もの、身体という“表現活動の三つのモード”に対応する範疇(カテゴリー)で分類したことである。さらには30項目のなかに、全身を使って表現するプレゼン技法を豊富に盛り込んでいる。
第2の特徴は、プレゼンテーション技法を使った「実践事例集」だという点にある。ここには小学校から大学、さらには社会教育まで、幅広い実践が収録されている。ただし、いわゆるモデル授業を紹介する本ではない。うまく行かなかった場面も含めて、ありのままの実践を報告したものだからである。
このように、プレゼン技法と実践事例をセットで記述する方式にしたのは、それによって読者が、技法の活用場面の実際を、より具体的にイメージできるようになるからだ。
このこととも関連するが、第3の特徴は、プレゼンテーション技法と他の技法(ウォーミングアップ、リサーチワーク、ディスカッション/ディベート、ドラマワークなど)とのつながりや組み合わせを明示した点である。実際の学習場面では、必ずしもプレゼンテーションが活動のゴールにくるわけではない。例えば、グループでのリサーチワークから、発表活動に移行し、その情報をもとにクラス全員がさらにディスカッションを行うというように、プレゼンを学習プロセスの一部に組み込んで活用するケースが多いからである。
試行を重ねて、使いこなせる技法のストックが増えればふえるほど、学びのデザイナーとしての自覚も高まっていくという好循環が生まれるはずである。とりあえずは、読者が新しいスタイルの授業に挑戦するときの参考資料として活用していただければと願っている。
1─本書の目的と特徴
2─本書の構成
3─本書の活用
4─教育プレゼンテーションの哲学
5─なぜアクティビティ研究なのか
6─獲得型の教育とは
7─獲得型学習モデル
8─おわりに--新しい専門家になるために
第2部 30の技法
●はじめの一歩
|世界一短いスピーチ
解説/ 実践 短いスピーチで朝のあいさつ(小学校1年生)
|1分間スピーチ
解説/ 実践 夏休みの思い出を話そう(大学1年生)
|即興スピーチ
解説/ 実践 即興自己紹介(高校3年生)
|ショー&テル
解説/ 実践「わたしの宝物」を紹介します(小学校1年生)
|なりきりスピーチ
解説/ 実践 緒方貞子さんになって話してみよう(高校3年生)
コラム1 教育プレゼンテーションの第一歩
コラム2 スピーチの身体技法のヒント
●「ことばモード」に重点をおいたプレゼンテーション
|スピーチ
解説/ 実践 ホームルーム担任の第一声(大学4年生)
|半即興スピーチ
解説/ 実践 ビジネスマンに英語は必要か(高校1年生)
|暗唱
解説/ 実践「外ういろううり郎売」を体験しよう(大学2年生)
|朗読
解説/ 実践「はらぺこあおむし」のストーリーテリング(大学4年生)
|群読・コール
解説/ 実践 留学生たちが谷川俊太郎の「生きる」に挑戦(大学、留学生)
|公開インタビュー
解説/ 実践 異文化キャラバン隊とアジアをひとまわりしよう!(大学、留学生)
|クイズ・ショー
解説/ 実践 音楽クイズショー(社会人)
|架空シンポジウム
解説/ 実践 どうする、天然記念物アユモドキの保護(高校3年生)
|ニュース・ショー
解説/ 実践 オノマトペで天気を伝えたら(大学3年生)
●「ものモード」に重点をおいたプレゼンテーション
|ポスター・セッョン
解説……109/ 実践 NZの学校でおはしの使い方を紹介しよう!(高校1年生)
|フォト・スライドショー
解説/ 実践 留学生のJ君、日本での10か月をふりかえる!(高校2年生)
|PCプレゼン
解説/ 実践 ハリー・ポッターのすべて(高校2年生)
|ビデオ作品
解説/ 実践 先生のCMをつくろう!(高校2年生)
|ガイドツアー
解説/ 実践「世界の教育」フェア(大学院生)
|紙芝居
解説/ 実践 紙芝居で考える「悪質商法」(高校2年生)
|人形劇
解説/ 実践 こんたろう、このあとどうする?(小学1年生)
|もの作り(オブジェ、展示空間など)
解説/ 実践 オーストラリア発・お弁当をデザインしよう!(小学5年生)
コラム3 話し方のヒント
コラム4 聞き方のヒント
●「身体モード」に重点をおいたプレゼンテーション
|フリーズ・フレーム
解説/ 実践 一年をふり返るクイズをつくろう!(小学1年生)
|なりきりプレゼンテーション
解説/ 実践 私ミミズ(高校3年生)
|CM発表
解説/ 実践ドラマ教育をCMにしたら(大学3、4年生)
|再現ドラマ
解説/ 実践わが家のルール(小学6年生)
|ホット・シーティング
解説/ 実践市長になって考えてみよう(中学3年生)
|ディベート・ドラマ
解説/ 実践ドメスティック・バイオレンス殺人未遂事件(高校2年生)
|ダンス
解説/ 実践身体で中空にイメージを描く(大学2年生)
|パフォーマンス
解説/ 実践メロスになって走ってみる(大学院生)
コラム5 聴き取りやすいスピーチのために
コラム6 メディア・リテラシー
第3部 応用編
|お天気さいばん
お天気のかみさま、おねがいきいて!(小学2年生)
|全校で取り組む「国際理解の日」(中学1-3年生)
|高校生プレゼンフェスタ
海外の高校生に伝えたい日本!(高校1-3年生)
|教師たちのプレゼンフェスタ
ニュース・ショー形式で考える東京大空襲(小大学教員)
あとがき