アジア法整備支援叢書 インドネシア
民主化とグローバリゼーションへの挑戦
インドネシア法における諸外国の影響、法の発展、社会と法の関係を、
法学、法実務、政治学、人類学、社会学という多彩な分野の専門家が明らかにする共同研究の成果!
◎編集代表
鮎京正訓(あいきょう まさのり)
愛知県公立大学法人(愛知県立大学、愛知県立芸術大学)理事長、名古屋大学名誉教授。
◎編著者
島田 弦(しまだ ゆづる)名古屋大学大学院国際開発研究科教授。
茅根由佳(かやね ゆか)筑波大学人文社会系助教。
川村晃一(かわむら こういち)アジア経済研究所地域研究センター東南アジアI研究グループ長。
草野芳郎(くさの よしろう)東京弁護士会所属弁護士。前学習院大学法学部教授。
河野 毅(こうの たけし)東洋英和女学院大学国際社会学部教授。
坂田有実(さかた ゆみ)株式会社システムシェアード勤務。
Jafar Suryomenggolo(ジャファール スリヨメンゴロ)
Centre Asie du Sud-Est(フランス・東南アジア研究センター)連携研究員。
新地真之(しんち まさゆき)名古屋大学大学院法学研究科学術研究員。
高野さやか(たかの さやか)中央大学総合政策学部准教授。
原田一宏(はらだ かずひろ)名古屋大学大学院生命農学研究科教授。
平石 努(ひらいし つとむ)弁護士(資格:日本国及び米国NY州)。
増原綾子(ますはら あやこ)亜細亜大学国際関係学部教授。
見市 建(みいち けん)早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。
宮澤 哲(みやざわ さとる)東京大学大学院総合文化研究科学術研究員。
宮澤尚里(みやざわなおり)
名古屋大学大学院国際開発研究科特別研究員(日本学術振興会)、ウダヤナ大学(インドネシア)客員研究員。
吉田 信(よしだ まこと)福岡女子大学国際文理学部准教授。
「刊行にあたって」より
スウェーデンによるベトナムに対する‟国会の立法能力向上支援”を目的とする法整備支援を嚆矢として、各国政府および国際機関が法整備支援という世界的規模でのプロジェクトを始めたのは、1989年以降のことであった。
そして、日本政府も、法整備支援を1990年代中頃に開始した。
それ以来、日本の法務省や日本弁護士連合会、JICAそして大学などは、それまで経験のなかった、法整備支援という‟法の分野の国際協力”に取り組むこととなった。
ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、インドネシア、モンゴル、ウズベキスタンなどアジア諸国に対し、日本は、立法支援、法曹養成支援、法学教育支援などの法整備支援を実施してきた。
したがって、法整備支援という法の分野の国際協力というプロジェクトは、
明確に1989年のベルリンの壁の崩壊に象徴される社会主義体制の崩壊と‟体制転換”という時代状況のなかで、あらわれてきたと言えよう。
本叢書は、法整備支援とは何か、それをどのように考えるかを主題とするが、
しかし、そもそも、アジア各国の法の在りようを実際に理解することなしに、法整備支援を行うことは不可能であった。
法というものを一つの文化としてとらえ、法学とともにアジアの政治、社会などに詳しい専門家との共同研究によってこそ、アジア諸国の法の実相に迫ることができる。
いま日本の法曹を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。
法整備支援の専門家として、また、法律事務所の法曹として、アジア各国に長期にわたり駐在し、
現地の法の解明に取り組む法曹が急速に増加している。
このことは、アジアをはじめとする世界各国の法曹と交流することなしに、
法に関わる仕事をすることは困難になってきていることを示している。
本叢書は、そのようなアジアに関心を持つ法曹、法学研究者、法を学ぶ若い世代に、
アジア諸国の法を学ぶことの楽しみを示してくれるとともに、多くの知的な刺激をなげかけてくれるであろう。
編集代表 鮎京正訓
刊行にあたって……鮎京正訓
はじめに…… 島田 弦
1 背景
2 インドネシアにおける法と社会を論じる意義
3 本巻の構成
第Ⅰ部 インドネシア法の全体像
第1章 インドネシアについての概観…… 島田 弦
1 インドネシアの概観
2 インドネシアの憲法および統治機構
3 インドネシアの法制度の特徴および概要
4 インドネシアの法制度改革と外国の支援(法整備支援)
第2章 法主体としての「インドネシア人」の創造…… 吉田 信
1 オランダ国籍法の成立と展開
2 東インドに居住する住民に対する法律上の区分
3 東インド住民の国籍をめぐる諸問題――「臣民籍法」
4 1949 年主権移譲
5 インドネシア国籍法の沿革――1958 年国籍法制定まで
第3章 インドネシア憲法思想の展開――人権概念を中心に…… 島田 弦
1 インドネシア共和国憲法
2 1949 年憲法(インドネシア連邦共和国憲法)
3 1950 年憲法(インドネシア共和国暫定憲法)
4 1945 年憲法の再公布
5 スハルト体制期における1945 年憲法
6 改革期における憲法改正
第Ⅱ部 公式法と非公式法
第1章 イスラーム法の現代的展開…… 見市 建
1 実定法としてのイスラーム法
2 イスラームをめぐる法制度の政治化と宗教的少数派の抑圧
第2章 慣習法と国家法…… 高野さやか
1 関係する法令及び法制度の解説
2 概念の積み重なり
3 具体的な紛争事例にみる国家法と慣習法の関係
第3章 森林行政と慣習林…… 原田一宏・坂田有実
1 独立以前から1990 年代までの慣習地や慣習林の位置づけ
2 昨今の慣習林に関する法令をめぐる動き
3 スマトラ島・ジャンビ州クリンチ県における慣習林の事例
4 慣習林のゆくえ――ローカルからナショナル、ナショナルからグローバルへ
第4章 東ティモールにおける国際社会からの支援と慣習法の関係の変化――紛争再発防止に向けた動き…… 宮澤 哲・宮澤尚里
1 受益コミュニティの主体的な事業への参加――RESPECT 事業に関する分析
2 慣習法の復興と社会連帯省(MSS)が実施する平和構築事業
3 「持続可能な天然資源管理能力向上プロジェクト」
第Ⅲ部 経済発展と法制度改革
第1章 知的財産法…… 新地真之
1 インドネシア知的財産法政策史
2 知的財産権と遺伝資源、伝統的知識の問題
3 インドネシア知的財産法の概要
4 知的財産権とエンフォースメント
5 今後の課題
第2章 不動産法制――社会主義と資本主義の狭間で…… 平石 努
1 土地基本法制
2 土地に対する権利
3 土地登記制度
4 抵当権法
5 インドネシアにおける不動産法制の現代的課題
第3章 レフォルマシ後の労働法――新たな社会契約の成立…… Jafar Suryomenggolo
1 制度の再構築:1998~2006 年
2 労働組合の反応――改正交渉
3 進行中の議論――最低賃金の設定
第4章 医療保障制度の改革…… 増原綾子
1 スハルト政権期までの医療保障制度
2 改革期における医療保障制度改革
3 国民皆保険をめざすインドネシア
第5章 資源開発法―石油天然ガス法の事例から…… 茅根由佳
1 2001 年石油天然ガス法の制定
2 2001 年石油天然ガス法をめぐる違憲審査
第Ⅳ部 国家機構における法制度改革
第1章 汚職取締りと司法改革…… 川村晃一
1 汚職問題への取り組みと汚職法制の歴史
2 汚職取締りに向けた法制度
3 汚職撲滅委員会による汚職の取締り
4 汚職撲滅の政治学
補遺―2019 年改正汚職撲滅委員会法
第2章 和解制度への取り組み…… 草野芳郎
1 日本の法整備支援以前の状況
2 日本のインドネシアに対する法整備支援
3 JICA のインドネシア法整備支援の評価
4 JICA 支援終了後のインドネシアに対する法整備支援の状況
5 今後の課題と2016 年規則について
第3章 東ティモールの国家構築と法制度…… 島田 弦
1 東ティモールの歴史と問題
2 住民投票後の東ティモール政治の展開と国際社会の関与
3 UNTAET による国家法制度整備―UNTAET 規則による法制度構築
4 憲法制定と憲法の内容
5 国際社会の支援を受けた司法制度とその危機
第4章 政治改革と法律扶助運動…… 河野 毅
1 理想的な「法の支配」
2 スハルト政権下の収奪性
3 この章の構成
4 スハルト政権の誕生
5 法律扶助協会(LBH)の誕生
6 構造変革法律扶助とは何か?
7 広がる構造変革法律扶助
8 スハルト政権と衝突していくLBH
9 国家イデオロギーとしてのパンチャシラ
10 スハルト政権にとっての三つの不安定要素
11 法廷闘争か社会運動かで分裂したLBH
資料 インドネシア共和国憲法…… 島田 弦