日本版「司法取引」を問う

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白取祐司+今村 核+泉澤 章 編著

A5判並製/176頁
本体1,500円+税
発行日 2015年12月10日
ISBN 9784845114474 C0036

“司法取引”の導入が新たな冤罪を生みだす!? 先の国会(第189通常国会)で継続審議となった日本版「司法取引」制度(刑事訴訟法等の一部を改正する法律案)の概要とその危険性を明らかに。

著者紹介

[執筆者](執筆順、*編著者)
*泉澤 章(いずみさわ・あきら) 弁護士
*今村 核(いまむら・かく) 弁護士
 笹倉香奈(ささくら・かな) 甲南大学法学部准教授
 内藤大海(ないとう・ひろみ) 熊本大学法学部准教授
*白取祐司(しらとり・ゆうじ) 神奈川大学法科大学院教授

[編著者紹介]
白取祐司
1952年生まれ。1977年、北海道大学法学部卒業。同年、司法試験合格。1979年北海道大学大学院修士課程修了。1981年司法修習修了。1984年北海道大学大学院博士課程修了(法学博士)。北海道大学大学院法学研究科教授を経て、現在、神奈川大学法科大学院教授。北海道大学名誉教授。

今村 核
1962年生まれ。東京大学法学部卒業。1992年、弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。冤罪事件のほか、労働事件、民事事件などを担当。群馬司法書士会事件、保土ヶ谷放置死事件などを担当。現在、自由法曹団司法問題委員会委員長、日本弁護士連合会全国冤罪事件弁護団連絡協議会座長。

泉澤 章
1966年生まれ。法政大学法学部卒業。1996年弁護士登録(東京弁護士会所属)。足利再審事件などを担当。現在、自由法曹団司法問題委員会事務局長、日本弁護士連合会人権擁護委員会第1部会(再審・誤判)部会長。

「はじめに」より

 2014年9月18日、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(以下、特別部会)で約3年間にわたって審議され、最終的に全会一致で取りまとめられた「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」(以下、最終案)が法制審総会に提出され、原案どおり採択された。
 最終案では、「捜査公判協力型協議・合意制度」という名のもと、「他人の犯罪事実」を取引材料として捜査機関に与えることで、「自分の犯罪」について不起訴などの恩典を受けるという、いわゆる捜査公判協力型の「司法取引」制度が盛り込まれた。その後、この最終案をベースに法案化が進められ、2015年3月、第189回通常国会に「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」(以下、法案)として提出された。法案は同年5月から衆議院法務委員会で本格的な審議に入り、おそよ60時間にわたる審議を経て、最終的に与党の自由民主党、公明党とともに野党の民主党、維新の党も加わって共同提案された一部修正法案が、同年8月5日、賛成多数で可決された。この一部修正法案は衆議院本会議で可決された後に参議院に送られたが、通常国会の終了によって継続審議の扱いとなっている(同年10月1日現在)。
 この法案の骨格を作った特別部会が設置された背景には、近年、相次いで明らかになった重大冤罪事件の存在と、警察、検察捜査に対する国民的な不信感の増大がある。志布志事件、氷見事件、足利事件、布川事件における最大の冤罪原因は、捜査機関による強引な取調べによっていわば無理矢理に作り出された虚偽自白であった。また、郵便不正事件では、関係者に対する強引な取調べが行われるとともに、検察官によって証拠偽造まで行われていたことが明らかになり、検察不信は頂点に達した。警察、検察による取調室という密室での長時間にわたる取調べ、そして、そのような取調べによって採取された調書が極めて重視されるという従来の刑事司法の在り方が、この時期、根本的に問われていたのである。
 それでは、特別部会は従来の刑事司法の病巣にどこまでメスを入れ、「改革」を進めることができたのだろうか。
 数々の冤罪事件が密室での強引な取調べに端を発していることから、当初は取調べの可視化がどこまで進むのかが最大の争点とされてきた。しかし、最終案における取調べ可視化の制度案は、それまで弁護士や有識者が求めていた「捜査の全事件、全過程の可視化」ではなく、全起訴事件のせいぜい2パーセント程度に過ぎない裁判員裁判対象事件と検察官捜査事件(いわゆる特捜事件)に限定され、かつ可視化の例外を広く認めるものに収れんしてしまった。
 こうして特別部会の最大の眼目というべき取調べ可視化の制度化が中途半端に終わった反面、特別部会では、盗聴(通信傍受)の拡大といった治安立法強化策や、「捜査公判協力型協議・合意制度」「刑事免責」といった新たな制度の導入が最終案に盛り込まれることとなった。これらの「改革」案には、取調べ可視化のように、従来の捜査手法の問題点を少なからず改善し、冤罪防止に役立てるなどという観点はおよそ存在しない。むしろ、捜査機関に新たな、そして強力な“武器”を与える「改革」案である。
 このうち、本書が対象とする「捜査公判協力型協議・合意制度」とは、これまでわが国にはなかった「司法取引」をはじめて法制度化するものである。特別部会では、従来の取調べと調書偏重の捜査から脱却する「新しい捜査手法」として導入すべきと説明されてきた。
 しかし、後にくわしく述べるように、この制度は構造的に、他人に責任をなすりつけ、無実の人を犯罪の容疑者として引き込む危険性を最初からはらんでいる。取調べに代わる「新しい捜査手法」という美名のもとに、むしろ新しい冤罪を生む危険性をもっているのである。
 そもそも特別部会の設置は、近年相次いで明らかとなった重大冤罪事件の存在、そしてそのような悲劇を生んできた捜査手法への批判があったはずである。それなのに、新たな冤罪を生みかねないこの制度が深く議論されることもなく導入されようとしているのである。
 本書では、この日本版「司法取引」とよぶべき新しい制度について、制度の概要と法案提出に至る議論の経緯について述べたうえで(第1章)、この制度のもつ危険性を過去の重大な冤罪事件に即してくわしく述べつつ(第2章)、さらに諸外国における類似の法制度とその問題点を紹介する(第3章)。
 法案化が急ピッチで進められようとしている今日、本書によって一人でも多くの方に、日本版「司法取引」がもつ危険性を知っていただければ幸いである。

主な目次

はじめに

第1章 日本版「司法取引」制度とは何か…… 泉澤 章
1 日本版「司法取引」の特徴
2 「司法取引」制度化導入に向けての動き
3 法制審特別部会─「司法取引」制度の具体化
4 もう一度徹底した論議を 

第2章 日本の「闇取引」 …… 今村 核
1 他人の罪を明らかにし、自分の罪を軽くする司法取引とは
2 真犯人が無実の者を巻き込むケース─「共犯型」①
3 共犯者自身も無実の場合─「共犯型」②
4 同房者の供述─「他人型」①
5 知人による情報提供─「他人型」②
6 「虚偽供述罪」の導入は冤罪を抑止するか
7 弁護人の同意は冤罪を防ぐことができるか
8 「取引を明るみに出す」結果となるのか

第3章 海外の司法取引制度とその運用

アメリカ .......................................... 笹倉香奈
1 捜査協力型取引
2 捜査協力型取引の問題点
3 捜査協力型取引の改革の動向・提言

ドイツ .............................................. 内藤大海
1 王冠証人規定をめぐる立法の歴史
2 王冠証人規定に関する実体法的問題─責任主義的問題
3 手続法的問題
4 具体的な弁護活動 

フランス .......................................... 白取祐司
1 フランス法と司法取引
2 司法上の軽罪化(correctionnalisation judiciaire)
3 「有罪の自認」手続の立法
4 まとめ 

おわりに

【資料】
刑事訴訟法等の一部を改正する法律案(抄)

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