調査報道実践マニュアル (―仮説・検証、ストーリーによる構成法)

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マーク・リー・ハンター著 高嶺朝一+高嶺朝太訳

A5並製/165頁
定価 本体1,500円+税
発行日 2016年11月25日
ISBN 9784845114849 C0036

世界で最も読まれているジャーナリスト待望のマニュアル翻訳刊行!
真実を明らかにする調査報道を可能にする方法、事例、ヒント、秘訣、そして精神が詰まっている。

著者紹介

〈編著者〉
マーク・リー・ハンター(Mark Lee Hunter)
調査報道ジャーナリスト、研究者、メディア・トレーナーなど、そのキャリアは多岐にわたる。The New York Times Magazineなどに200本以上の調査報道記事を発表し、フランスで人気のある左翼政治家ジャック・ラングの評伝など多くの本を出版している。Investigative Reporters and Editors(IRE)の賞をはじめ多くの賞を授賞してきた。世界各地で調査報道のワークショップを開催し、トレーナーとして活動している。

〈訳者紹介〉
高嶺朝一(たかみね・ともかず)
1943年沖縄県生まれ。西南学院大学文学専攻科(英文)修了。琉球新報社記者、編集局長、論説委員長、代表取締役社長、2010年退任。著書に『知られざる沖縄の米兵』(高文研)。

高嶺朝太(たかみね・ちょうた)
1978年沖縄県生まれ。私立サンフランシスコ大学卒(メディアスタディー)。The Tex Report (東京)翻訳者を経てT&CT Office 編集責任者。映像作品『Trapped』でカナダ、米国の映画祭で受賞。雑誌『世界』や琉球新報にルポなどを寄稿。

著者からのメッセージ

日本語版に寄せて
マーク・リー・ハンター


このマニュアルの日本語版が出版されることを喜びとし、光栄に思っています。私の尊敬する早稲田大学ジャーナリズム研究所に感謝します。また短期間で、翻訳作業をしていただいた高嶺朝一、高嶺朝太両氏にも感謝いたします。
早稲田大学ジャーナリズム研究所は、Waseda Investigative Journalism Project(WIJP)を発足させ、その初めての調査報道ジャーナリズムリポートはやがて発表される予定と聞いています。WIJPは、日本における、いわゆる緩やかな検閲の台頭に対する応答です。 日本におけるこの傾向に対して、国連人権理事会特別報告者のデービッド・ケイは、昨年4月に、「急速に、注意が必要なほどに間違った方向に向かっている」と批判しました。誠意のあるジャーナリストたちが生計を失い、真実を言う自由を失うことになります。そうすれば、公共の利益に関する問題が隠されたままになるのです。

WIJPは、仮説に基づき、証拠によって記録された、調査報道ジャーナリズムによって、この傾向に対抗する運動を作り出すことを希望しています。 私は、若いジャーナリストもベテランジャーナリストも勇気と英知をもってこの運動に参加することを期待します。たとえ、どんな困難に直面しようと、それを相殺して有り余るほどに報われるだろうということを保証します。そういう人々は、世界中で価値のある仕事を成し遂げる、知るに値する人々の一員になるのです。福島原発事故の真実を明らかにするため、公職を辞めた木村信三氏のように(注1)、彼らは、この仕事に新しい意味と今までとは異なった成果を見いだすことでしょう。調査報道ジャーナリズムの手法に取りかかったばかりのジャーナリストであっても、すでにその手法を実践しているジャーナリストであったとしても、この本が、みなさんの成功への道を手助けすることを期待しています。

この翻訳のおかげで、ストーリー・ベースの調査取材法をかつてまとめた際に忘れていた要素を書き加える機会を得ました。それは、日本固有の「製造哲学」の方法論がこのマニュアルに与えた影響です。この本におけるその重要性について、ここで初めて明かしたいと思います。

私が1997年にフランスと米国の調査報道ジャーナリズムの手法を比較研究した博士論文(注2)を発表した後、私はフランス語でジャーナリスト向けのマニュアル執筆を依頼されたのですが、それを断りました。私はまだ準備ができていなかったのです。あとから気がついたことですが、私の論文は、2つの文化における調査報道ジャーナリストの作業において見いだすことができた5つの工程段階の概要をまとめたものだと言えます。しかし、これらの工程は発展性のある方法へとは結合されていなかったのです。
 さらに正確に言うならば、これらの手法は、調査報道ジャーナリストは作業が遅く、結果が出せないといった編集者や発行者からの批判に目を向けてはいなかったのです。調査報道ジャーナリズムを実践してきた者として、私の研究は、その批判が正しいことを立証しようとしていました。

私の論文で分析した3つの事例では、ジャーナリストはまずあるテーマを見つけ、それから包括的なバックグランド調査をし、テーマの環境の中に自らを置いてみて、真実でないかもしれないという疑念を払拭していきます。それから、ストーリーを作成し、それを発表して、かつ弁護・防衛します。私が取り上げた研究事例は、発表もうまくいき、事態の改善にもつながった、いわば一流のストーリーだったのです。そのため、みなさんはその手法が最善の方法だと思うかもしれません。しかし、これは明らかにベストな方法ではありませんでした。

それぞれの5つの段階は、面倒で、実験的で、不確実性がありました。全体の工程は、無駄に行ったり来たりする作業が目立っていました。なぜならジャーナリストが、絶え間なく、自身の発見を再確認し続けたためです。さらに、ジャーナリストは明らかに、取材の段階で得た大量の情報を扱うのに困難を感じ、まさに情報の海の中で溺れているような状態でした。間違いなく、私たちはもっとうまいやり方ができるはずです。
 本書の序章でも触れていますが、2001年に私は調査報道ジャーナリズムの仕事から長期休暇をとり、ビジネススクールで働きました。そこでの私の最初の師匠は、イブ・ドーズ(Yves Doz)でした。彼はジャーナリズムの理論と同様に工程にも深い興味を持つ研究者でした。その当時の同氏の共同研究者は多国籍企業の元CEO のホセ・ジョー・サントス(José “Joe” Santos)で、 イブと同様、優れて実践的な考えの持ち主でした。2005年にジョーは日本で日産の経営者訓練計画を開始し、私も講師として招かれました。 そこで、私は日本人の改善を目ざし、継続する姿勢を目の当たりにしました。しかし、この本を作成する際に最も役だった知識は、そのあとから学ぶことになりました。

一方で、私は、世界調査報道ジャーナリズムネットワーク(Global Investigative Journalism Network、GIJN)の設立に参加し、定期的に調査報道ジャーナリズムの会議に出席しました。それらの会議で何度も見た場面には、少数のベテランジャーナリストと大勢の新米ジャーナリストがいて、その中間の人たちはいませんでした。ウォーターゲート世代後の調査報道ジャーナリストの知識を新しい世代に伝えることは非常に重要なことであります。その作業は米国では4000人の会員を持つ非営利組織、調査報道記者編集者協会(Investigative Reporters and Editors、IRE )によって始まっていました。しかし、IREの知識のベースは、米国の調査報道ジャーナリズムに特化したものだったのです。
さらに、IREでさえ、調査報道を企画し、実行する基本的な方法を確立してはいませんでした。その素晴らしい方法論的な貢献があるとすれば、それは文書化された情報源の見つけ方をジャーナリストに示すようなものだと考えられていました。しかし、私がジャーナリズムを教えていた経験では、ほとんどのジャーナリストは自力で記録文書の見つけ方を学ぶことができていました。不幸なことは、見つけた情報を説得力のあるストーリーに落とし込むやり方を理解しているジャーナリストが少数だったということです。
 この問題を解決するには、暫定的なストーリーである「仮説」を立てることから取りかからないといけなかったのです。序章でもふれましたが、私は、この技法を2005年のGIJNの会議で提案しました。同僚たちは、この提案に、即座にかつ熱心に反応しました。しかし、このコンセプトはなお不完全なままでした。この会議で知り合った、ルーク・サンジェ(Luuk Sengers)と フレミング・スビス(Flemming Svith)が発展させた整理整頓の手法は、完全な手法を構成するための部分ではあったのですが、全てのピースを完全にまとめることはまだできていませんでした。

2007年に私はイブ・ドーズの代わりに日本に戻り、日米のジョイントベンチャーで半導体メーカーの「スパンション」に関するリサーチを行ないました。 ある日、日本人の重役が3語連鎖を書いて、どのようにして従業員が連続して製品開発をしているかを説明してくれました。それは、「採用、製造、改善」の3つのプロセスで、彼が言うには、それぞれの工程は重なり合い、連続して進行するものだということでした。製造工程をデザインする間に、製品を採用する、新しいデザインを採用する間に、それぞれの製品世代ごとに製造を改善するのです。あとから検証しやすくするために、これらのプロセスの各ステップを記録し文書化します。

この斬新で独創的な手順は、私が求めていた答えの基底構造を示してくれました。それは、調査報道ジャーナリズムをより効果的に行なうためには、個別の分離した手順よりも、連続した工程を経てなされるべきである、ということです。仮説を設定し、暫定的なストーリーを作る。それを証明、または否定するような証拠を探す。その間に、仮説は改善されていく。それは他のアイデアを生み出し、新しい仮説とそのプロセスは継続していく。全ての手順を記録し文書化することにより、完成品への自信は増し、知識データベースが作られる。ストーリーは、一瞬にと言うよりも、徐々に形成されていく、ということになります。

 そういうときに、アラブ調査報道記者協会(Arab Reporters for Investigative Journalism、ARIJ)が、私に調査報道ジャーナリズムについてのマニュアルを書くように依頼してきました。私は、今回は引き受けました。GIJNのおかげで、基本構造を改善するための専門家を協力者としてどこで見つければよいのか、分かっていました。このマニュアルには世界的動向の最高の知識を詰め込む必要があると考えました。『調査報道実践マニュアル―仮説・検証、ストーリーによる構成法』は、調査報道ジャーナリズム史上、初の国境を越えた手法の手引き書となりました。英語とアラビア語で書かれた第1版から始まり、ジャーナリストや関連機関により数十回も翻訳されてきました。

 これは確かに、調査報道ジャーナリストが使うことでのできる唯一の方法ではありません。調査報道ジャーナリズムのアンソロジー(注3)を作るために、私は20人以上のジャーナリストにそれぞれの方法を詳述してくれるように依頼しましたが、ジャーナリストの数だけ、それぞれの方法がありました。しかし、全ての方法に共通しているのが、情報を整理し続けることとストーリーの修正に重点を置くことで、ほとんど全ての人がストーリーの原型である仮説を立てることから始めていました。これは変化しうるステップなのです。ウォーターゲート事件のあとの1970年代に私のキャリアは始まりましたが、当時の調査報道ジャーナリストは手法の開発には時間をかけませんでした。今では、手法は完成品を左右するほど重要なものになっています。

 「仮説・検証、ストーリーによる構成法」は、全ての人にとっての最善の方法ではないかもしれません。しかし、それはシンプルで、しっかりとしており、調査報道ジャーナリズムを成功させるための基本的な役割を示しています。すぐに、自分自身でそれを改変したり、改良したりするバージョンを思いつくことでしょう。私はそれをみなさんに発表してほしいと思っています。みなさんが試してきたことから、私たちも学べるからです。みなさんとそのキャリアがうまくいくよう、幸運を祈っています。

1)依光隆明、上地兼太郎「研究者の辞表」(連載「プロメテウスの罠」より)、朝日新聞、2011年12月31日。この連載記事と福島原発事故関連のストーリーの英訳版を提供してくれたWIJPに感謝します[訳注:このストーリーは、朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実』学研パブリッシング、2012年、に収録されている]。
2)Mark Hunter, Le Journalisme d’investigation en France et aux Etats-Unis. Presses Universitaires de France, Coll. Que sais-je ?, 1997.
3)Mark Lee Hunter(ed.), The Global Investigative Journalism Casebook. UNESCO, 2012.

主な目次

日本語版に寄せて(マーク・リー・ハンター)
序 章
第1章 調査報道の手法を用いたジャーナリズムとは何か
第2章 仮説の使用―調査方法の核心部分
第3章 公開情報を使う―背景についての知識獲得と推論
第4章 人的な情報源を使う
第5章 整理―成功のための条件づくり
第6章 調査結果を書く
第7章 品質管理―テクニックと倫理
第8章 それを発表せよ
厳選した参考文献
訳者あとがき

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