あきらめないで痴呆治療 (家族の愛情・名医の処方せん)

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河野和彦

四六判並製/224頁/
定価 本体1,500円+税
発行日 2000年4月10日
ISBN 9784845108844 C0036

重症の患者さんに奇跡が起こる。日本で唯一の痴呆の薬「アリセプト」の真実。医者と家族の感動ものがたり。

著者紹介

河野和彦(こうの かずひこ) 1958年名古屋市生まれ。
近畿大学医学部卒業、名古屋大学医学部大学院博士課程修了(老年科学専攻)、医学博士。特定医療法人共和会共和病院老年科部長。
著書『痴呆症に負けない!』中央法規出版、『老親を痴呆から守る28の鉄則』女子栄養大学出版部、『痴呆化遺伝子』医薬ジャーナル、『若く見える人老けて見える人』法研、『親がぼけたと思ったら』主婦の友社、ほか多数。

著者からのメッセージ

痴呆症は病気です。年をとったらだれしも痴呆症になるわけではありません。老化現象は治せませんが、病気ならやがて治したり予防したりできる日がかならず来ます。そして痴呆症を治療する時代は、未来ではなくすでに始まっているのです。

 痴呆症にはいろいろな種類がありますが、最近急増しているのはアルツハイマー型痴呆。このタイプの痴呆症は放置すると進行します。その進行をくい止める効果をもつ薬が日本人によって開発されました。アリセプトです。一般名はドネペジルといいNHKはこの一般名で報道しています。

 いままで痴呆症について書かれた一般書といえば、ほとんど介護、看護の話でした。ですから私が『医学書』のつもりで出版してきた痴呆症の著書は、大型書店においては決して医学書のコーナーに置かれることはなく、介護のコーナーに置かれてきました。

 そのつど私は、こう思いました。日本人の認識は、『痴呆症は医学ではない、福祉の世界をいまだに脱していない』のだと。しかしアリセプトを服用した患者さんの3パーセントには奇跡ともいえる効果が出るのです。たかが3パーセントと侮らないでください。医学の世界で『奇跡』をおこす力を持った薬などめったにありません。

 アメリカではアルツハイマー型痴呆の患者がたいへん多くて日本より一足先に社会問題になっています。レーガン元大統領、俳優のチャールトンヘストンさん、チャールズブロンソンさんがかかったことでも有名になりました。ですからアメリカ人はアリセプトの価値を高く評価し、薬のノーベル賞といわれるガリアン賞を授与したくらいです。

 日本の医学界では、『アルツハイマーが治った』とか『著効』と騒ぐことはご法度のようです。また論文の中で『奇跡』などという表現を使うことは許されません。だから私がアリセプトで改善した患者の家族が喜ばれたことを、こうして著書の中で皆さんにお知らせするしかないのです。ただ、付け加えておきますが、アメリカの論文にはアリセプトの効果が『ミラクル』と表現したものも実はあるのです。

 なにが奇跡かというと、どんどん痴呆が悪化してきていた肉親が2年前の状態にもどってほとんど病気とは思えない、豊かで介護を必要としない生活にもどるということです。こういった幸せな期間が2年くらい続きます。

 そしてまた痴呆は進行してゆくのですが、介護している家族にとって大きな喜びと休息がとれたわけです。また施設に入所するのが2年先延ばしになったことによって400万円近くの費用が不要になるという考え方もできます。

 ところで、アリセプトを飲んだ患者のうち、残りの97%は効かないのでしょうか?ご安心ください。ちゃんと効きます。私の経験では半年飲めば約6割の方が一時的にせよ症状が改善するのです。学会でも多施設から報告があり、改善率はやはり六割を越します。

 さらに、外見上改善していない患者も脳内では進行抑制をしているらしく、アリセプトを飲んだことのない患者とは差がつくとのことです。

 ところが、アリセプトにはちょっとした落とし穴があります。最初のうちは2割の患者が軽い下痢や吐き気などをおこすことがあり、さらに徘徊などの興奮状態をおこすことがあります。アリセプトの量を減らしたり、興奮を抑える薬を併用したりせずにアリセプトを続けますと15%が中止になったというデータがあります。貴重な薬なのに残念なことです。

 私はアリセプトの量を加減して、興奮を抑える薬を約4割の患者に併用していますので、アリセプトを副作用で中止するケースは約4パーセントに収めています。こうしてアリセプトの発売当初から飲んでいる患者は、現在(平成16年5月)までに肝臓障害などをおこさずに4年間飲み続けています。

 私は日本中の開業医さんに、アリセプトを処方してもらうために論文を書きました。患者が多いので1時間以上かけて調べるような知能検査はできません。アリセプトによって改善したかどうかは家族の判定を信じて評価しました。そうすると論文は却下されたのです。家族の評価は客観的でないから科学論文としては採用できないとのことでした。

 痴呆の評価は難しく、知能検査の得点が上昇しているのに、家族は病状が悪化していると感じるケースもあります。医者というのは、患者とともに家族を救うために処方しているのであって、知能スコアを上昇させて論文を書くことを目的とはしていません。

 そこで、私は論文以外の手段として、こうして介護者の皆さんに痴呆症の治療のあり方を知っていただくために、それを今回出版することにしました。医師の先生がたの目にもふれることを期待しています。

 アルツハイマー型痴呆以外の痴呆、たとえば『脳血管性痴呆』にはアリセプトは処方されませんが、元気を出したり、落ち着かせたりする薬はあります。また主治医は脳血管性痴呆と思っていても専門医が見たら『混合型痴呆』、つまりアルツハイマーがまざっていて、アリセプトを処方できるケースも少なくありません。一度でいいから痴呆症に詳しい先生にも診ていただくといいかもしれません。

 こんなケースがありました。長崎県の男性で、その娘さんが看護師だったため父親が『うつ病』と診断されていることに違和感があり、わざわざ受診させてくれました。診察の結果は、典型的なアルツハイマー型痴呆でした。アリセプトを処方して地元の先生にもお手紙を書きました。

 日本の痴呆診療レベルは、いまだ発展途上です。医師の診断に疑問があるなら2、3人の先生に意見を求めることは許されることだと思います。

 薬の副作用についても家族が知識を持ち、医者まかせにしないことが大切です。薬の調整は最終的には医師が決定することですが、介護者の観察はその判断材料として欠かせないものです。薬によって、痴呆症状はどう改善しどう悪化するのかをこの本で知ってください。患者の安全を守るのは医者ではなく家族なのです。

 いよいよ、痴呆症も治療の時代になりました。痴呆症は介護だけでなく、薬をうまく使って介護を楽にする方法も真剣に学ぶ時期がきました。この本は、実話を小説風にして書いてありますが、知らないうちに痴呆症治療を勉強できるようにしてあります。どうか介護の手を休めて気楽にお読みください。痴呆患者との生活に明るいイメージをもつことができるようになるはずです。

この本の内容をすぐに知りたいあなたへ
 お忙しいところ、ご苦労様です。

 この本を開いてみたあなた、あなたのご肉親、ご親戚、お友達、それともごきょうだいに痴呆症の疑いをお持ちですか? あるいは、ご自分の最近の物忘れが心配ですか?

 この本はそんなあなたの心配、不安に単刀直入にお答えします。私がこの本の中で訴えたいことを最初に申し上げましょう。

痴呆症は病気なので一部の人しかかからない。病気だから早期発見、治療が必要である。痴呆症を放置すると結局は医療費が余計かかることになる。
痴呆症の早期発見は、医師よりも同居者や家族にしかできない。物忘れを年のせいにせず医師にかからせるのは家族の責任である。
家族がおかしいと思っているのに医師が痴呆症ではないと言ったら、それを信じる必要はない。なぜなら日本の痴呆診療技術は遅れているからである。他の医師を探すべきである。多くの医師は痴呆症に興味がないし、治す意欲もない。
痴呆症の早期発見は、専門医にしかできない。しかし、かかりつけ医は専門医を知らないし紹介もしてくれない。専門医にたどり着く患者は、ほとんどはケアマネージャーや看護師の口添えか患者どうしの口コミで訪れる。
神経内科、精神科、老年科、脳外科など痴呆症を見てくれそうな標榜はいくらでもあるが、その医師が痴呆症を得意としているという保障はない。ひたすら痴呆症を大勢診てきた医師を個人的に探すのがよい。大病院や教授だから名医ともかぎらない。
脳血管性痴呆と診断された場合は、『アルツハイマーが混ざっている可能性はありませんか』と聞いてみる。混ざっているならアルツハイマー型痴呆治療薬のアリセプトを処方してもらえる可能性が出てくるからである。痴呆症状を起死回生に改善させうる薬はアリセプトが一番可能性が高い。ただし本当に脳血管性痴呆ならサアミオンなどもよく効く患者がいる。
アリセプトはふつう3mgから開始するが、いきなり5mgが処方されて下痢などの副作用が出た場合は処方が中止されるおそれがある。そのときは、半分に減らして体に馴らせる期間を設けさせてもらう。
アリセプトを開始して三ヶ月から半年で効果が見られないとき処方をあきらめる医師がいるが、中止してから痴呆症状が一段と悪化したように見えたらアリセプト再開を頼んでみるべきである。
自分が痴呆症になることが心配なら血圧、血糖値、血清コレステロール値を制御し、魚をよく食べ、食後の散歩を励行し、社交性を保つこと。頭を強く打撲する機会のないように。魚を食べられない人はDHAを、冷え性でやる気の出ない人はイチョウ葉エキスを購入して服用しても結構である。
 どうですか? これらの内容に興味があったらこの本をじっくり熟読してください。私はアルツハイマー型痴呆治療薬アリセプトを日本で一番処方している医師です。いままでアリセプトを1,450人に処方して改善率6割を達成してきました。

 そこで、アリセプトの性質に精通し、患者の能力を最大限に引き出し家族の負担を軽減してきました。私はあたかも『職人』のように痴呆症患者さんをもくもくと毎日毎日診て、愛してきました。

 そしてご家族の愛情に感心し深い感動を覚えました。私は主治医として処方でご家族の愛情に参加したいと思いました。その愛情物語24話をお読みください。

 登場人物の名前は、すべて仮名にしてあります。また、アリセプトの処方量には5mgという暗黙の規定があるのですが、患者さんの体質や病状に合わせて、その量を加減しなければなりません。しかし、地区によっては5mg未満の処方を認めないレセプト審査員がおられ医療現場のスタッフが困っています。そのことを最初にご了解ください。

 アリセプトは魔法の薬ではありませんし、痴呆症は完治できません。しかし与えられた唯一の宝物アリセプトは知恵をしぼって大切に使いたいものです。いつかアルツハイマー型痴呆も治る日が来ます。その日まで痴呆が進行しないようにともにがんばりましょう。

 これからもより大勢の患者さんと出会い、学び、治してゆくことを楽しみにしています。

河野和彦

主な目次

はじめに
第1章 痴呆症を診る
痴呆症とは?

物語1 「親父、治ったのか!」 医師の息子が驚いた

物語2 世界で一番簡単な痴呆テスト「時計の絵」

物語3 アルツハイマー型痴呆の遺伝

物語4 痴呆症患者さんの家族は不幸ですか?

物語5 「涙が出るほどうれしくて」重症の夫が再び彫刻を彫りだした

物語6 誤診は続くよどこまでも

物語7 自殺まで考えたお嫁さん、義父の改善で笑顔に!

物語8 主治医も気づかなかった! うつ病の薬は足につらし

第2章 痴呆を治す
痴呆を治すとは?

物語9  五年ぶりに造花をつくった、外来で涙の報告

物語10 どうしても治したい。娘の執念が奇跡をおこした

物語11 嫁の目にも涙、「今日はあんたの誕生日だったねえ」

物語12 俺がやるんだ! 骨折した妻の変わりに家庭を守る幸生さん

物語13 二つの病気、薬の量は家族が調整

物語14 重症痴呆の夫を「愛おしむ」妻と娘の笑顔

物語15 嫌がる患者を「土俵」に上げる方法

物語16 「寿司がうまかった」栄養改善で痴呆を治す

第3章 あきらめないで 痴呆治療

痴呆治療によいイメージを

物語17 プライドでよみがえった、六年間痴呆が進行しない老舗女将

物語18 お盆に魂が降りてきた、真夏の夜の奇跡

物語19 ケアマネジャーさんのアイデアでお父さんがイキイキ

物語20 悪化するピック病の母親への不安、メールで娘さんの心を支えた

物語21 要介護度変更でショートステイ利用。家族が助かった

物語22 髄液を抜いて3年ぶりに記憶が改善。沖縄へ行くぞ!

物語23 大規模な脳梗塞にかくれた病魔を見破って奇跡が

物語24 元気がなくなっていたお父さん、転ばなくなった、笑った!

おわりに
アドバイス1 知能検査を行なうことが痴呆診察の基本

アドバイス2 常識的な痴呆症の診察手段

アドバイス3 抗うつ薬を服用している方にひと言

アドバイス4 アルツハイマー型痴呆の「血管因子」

アドバイス5 「時計の絵」描画テスト

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