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12月5日のしんぶん赤旗で『渡辺治著作集 第Ⅰ期』ついての記事が掲載されました
2022.12.05
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『季刊 人間と教育 114号』に渡辺治先生のインタビューが掲載されています
2022.06.15
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2022.06.07
渡辺治著作集 第1巻 天皇制国家の専制的構造
大逆罪・不敬罪に焦点を絞り天皇制国家の専制性を浮き彫りにし、
市民的自由を抑圧する天皇制国家秩序の創出・確立・崩壊過程の全体像を明らかにする。
不敬罪と治安維持法の関係を明らかにする第四章、
敗戦による天皇制国家秩序の崩壊過程を描く第五章は初めての活字化。
[本巻の検討対象]
本巻と第2巻は、現代日本国家の直接の前提をなす近代天皇制国家の構造――とりわけ市民的自由の抑圧の構造を分析している。
筆者が研究者になって以来の、いやそもそも研究者になろうと思った動機、問題関心は、現代日本国家の特殊な構造を変革の立場から解明することであった。しかし、それを理解するうえでも、その直接の前提をなす近代天皇制国家の構造の分析が不可欠であると考え、東京大学社会科学研究所の助手に採用されて勉強を始めて以降、まずは、近代天皇制国家の構造を知ることに集中した。
自分が研究者になって解明したいと思った現代日本国家・社会の構造にいきなり入らなかった理由は以下の諸点にあった。
第一に、私たちが目にする戦後国家は、近代天皇制国家による植民地支配と侵略戦争の敗北の上に、その反省を踏まえて建設されたものであるという点である。戦後長らくの間、日本現代史が「戦後史」という言葉で語られ続けていたことも、また今なお1945年から10年ごとの節目は「戦後70年」というように呼ばれていることも、現代日本社会が、過去の戦争と敗戦の衝撃からつくられたという国民の共通経験を前提にしていたからであった。
第二に、その延長線上だが、現代日本社会と国家には、天皇制国家時代の構造の刻印が押されていると考えられたからである。現代日本分析に際しては、多くの論者が戦前日本との連続や断絶性を念頭に置いていた。講座派や近代主義派は、戦前との関係を重視したが、それに対して、現代日本社会・国家の戦前との断絶を重視する論稿も、戦前の刻印をどう評価するかを意識してきた。一方で、現代日本は、アメリカへの従属、企業社会、自民党政治など、戦前日本とは異なる支配の構造、それに伴う矛盾を抱えてきた。
こうした点から、現代日本社会・国家を解明するには、近代天皇制の構造分析、その刻印は、どうしても避けて通れないと思われた。
本巻は、そうした近代天皇制国家の全体像の解明を念頭に置いた論文を収録している。第Ⅰ部に収録したのは、今から43年前、1978年に社会科学研究所に提出した助手論文「天皇制国家秩序の歴史的研究序説――大逆罪・不敬罪を素材として」(以下、第1論文)の全文である。くわしくは、巻末解題に書いたが、この助手論文の前半部は、同名の題で論文提出直後に『社会科学研究』に掲載している。しかし、論文の全文は、今回初めて活字にして収録した。
第Ⅱ部は、第1論文の直後の1982年に歴史学研究会大会近代史部会で行なった報告「日本帝国主義の支配構造」(第2論文)と、これら論文から、ほぼ40年後に書いた近代天皇制の研究史「近代天皇・天皇制論の課題」(第3論文)を収録した。
◎渡辺治著作集 特設Webサイトはこちら↓
https://peraichi.com/landing_pages/view/b5ky0?_ga=2.55905260.656313265.1633307205-887382246.1633307205
解説
Ⅰ 天皇制国家秩序の歴史的研究序説―大逆罪・不敬罪を素材として
序 課題の設定
秩序とは何か
なぜ、大逆罪・不敬罪に題材を求めるのか?
二つの視角
近代天皇制国家秩序の時期区分
第一章 天皇制国家秩序の創出―大逆罪・不敬罪の成立
一 国家・君主擁護規定の誕生
1 君主と国家の観念的分離をめぐって
2 君主と国家の未分離―前提となる秩序観念
⑴ 唐律の「十悪」
⑵ 大宝・養老律「八虐」
⑶ 近世における明律受容と「国家」観念
3 明治一三年刑法草案起草過程における国家と君主
⑴ 草案起草の経過と対立の基軸
⑵ ヨーロッパとの遭遇―国家と社会の観念
⑶ 国学イデオロギーの否定―法律による支配の貫徹の志向
⑷ 「国家」は「君主」よりも重し
⑸ 国事犯の死刑是非をめぐる対立
⑹ 天皇観の転換
⑺ 内乱罪の登場
⑻ 不敬罪の規定をめぐって
4 審査局の修正
⑴ 皇室ニ対スル罪
⑵ 不敬罪の規定の修正
⑶ 内乱罪関係の修正
二 刑法改正論の国家像―井上毅の改正論を中心に
1 井上毅の改正意見―「絶対君主」としての天皇構想の挫折
⑴ 「国事犯」論への、井上の異論
⑵ 「絶対君主としての天皇」構想と天皇制国家の天皇
2 司法省法律取調委員会の改正案―天皇制国家の基本秩序の承認
⑴ 司法省の刑法改正構想
⑵ 司法省法律取調委員会の刑法改正構想
第二章 天皇制国家秩序形成・確立期における大逆罪・不敬罪
一 天皇制国家秩序形成期における不敬罪の発動
1 天皇制国家の確立と内乱罪、大逆罪、不敬罪の運用
2 自由民権運動への不敬罪の発動
⑴ 不敬罪の政治的発動
⑵ 不敬罪裁判の特徴
3 「警察国家」の形成と刑事法規の謙抑
二 大逆事件と天皇制国家秩序の確立
1 警察的取締り法制の体系的発動と整備
⑴ 大逆事件の検挙経過
⑵ 特別要視察人制度の確立
⑶ 新聞紙法・出版法の規制
2 不敬罪の〝活躍〟
3 大逆事件の仕掛人―司法官僚と内務官僚
⑴ 内務・司法官僚の「作品」としての大逆事件
⑵ 司法官僚層台頭の契機
4 天皇の仁慈の制度化
⑴ 恩赦法の体系と概要
⑵ 天皇制型〝政治犯〟の特質
⑶ 恩赦の政治的運用─特赦
⑷ 天皇制秩序における負の価値序列
第三章 天皇制国家秩序の危機と不敬罪の展開
一 天皇制国家秩序の危機・二つの契機
⑴ 警察的取締りの網をかいくぐる、二つの新しい運動
⑵ 君主制の危機
二 不敬罪の姿態転換―新興教団への発動
はじめに―宗教団体規制と不敬罪
1 明治期の宗教規制の形態とその破綻―前提的考察
⑴ 三つの類型に分かれた宗教団体規制政策
⑵ 天理教に対する取締り
⑶ 大本教の発展―公認化路線の放棄
⑷ 「類似宗教団体」規制
2 第一次大本教事件
⑴ 検挙への経過にみられる内務省と司法省の対抗
⑵ 大本検挙への途
⑶ 不敬罪発動の意義とその限界
3 天理研究会への不敬罪の発動
⑴ 天理研究会の形成
⑵ 検挙の特徴―不敬罪による大量検挙
⑶ 不敬罪事件の法廷闘争の特質
⑷ 天理研究会事件と類似宗教団体取締りをめぐる模索
三 治安法制の内部での不敬罪の役割
1 〝主義者〟取締りと不敬罪
⑴ 活動家周辺層への発動
⑵ 不敬罪の中継ぎ的性格
2 マス・メディアの言論規制面における不敬罪の役割
⑴ 皇室報道と不敬罪
⑵ 不敬罪事件報道に対する規制
四 君主制の宣伝と〝不敬〟事件
1 行幸の季節―難波事件を中心にして
⑴ 皇室行事の増加と不敬・大逆事件
⑵ 難波事件裁判の異様
2 〝御真影〟に対する不敬罪
⑴ 御真影・肖像写真類への既存の規制
⑵ 御真影等に対する不敬罪発動の特徴
3 国体論の流行とそのアポリア
第四章 「ファシズム」期における不敬罪と治安維持法の交錯
一 天皇制国家の宗教政策の転換
二 第二次大本教事件
1 大本第二次検挙の契機
⑴ 第二次大本教事件に関する既存研究の検討
⑵ 一九三〇年代、社会の動揺と「宗教復興」
2 内務省主導の検挙
3 治安維持法の発動
⑴ なぜ治安維持法の適用がなされたのか?
⑵ 治安維持法発動に伴う困難
4 結社禁止処分の発動
三 ひとのみち教団事件―ファシズム期の宗教統制における不敬罪の役割
1 ひとのみち教団と不敬罪
⑴ ひとのみち教団の摘発
⑵ 治安維持法はなぜ発動されなかったか
2 「ひとのみち型」の取締り対象の大拡大
⑴ 公認教団の摘発―「類似宗教」概念の転換
⑵ 現世利益重視型教団
四 天理本道事件と天理教
1 天理本道事件のねらい―天理教
2 天理本道事件
3 天理教団〝転向〟の強要
五 キリスト教団体への規制の突破口としての燈台社事件
1 日中全面戦争開始と宗教団体規制の新展開
⑴ 日中戦争後キリスト教団体への弾圧
⑵ 軍部の宗教団体規制への登場
2 燈台社への治安維持法の発動
六 宗教団体法、治安維持法改正と不敬罪の変容
1 宗教団体法の成立
2 治安維持法改正
第五章 天皇制国家秩序の崩壊過程
一 敗戦前後の天皇制国家秩序
1 戦時下の不敬罪運用の特徴
⑴ 戦時下の言論統制秩序
⑵ 戦時下言論統制秩序の中の不敬罪
2 敗戦時天皇制国家の秩序再編構想
⑴ 治安の拡充と〝秩序〟の売り込み
⑵ 自前の再編の試み
二 一〇月四日の覚書と恩赦―占領権力と天皇制の最初の攻防
1 天皇制の防戦と譲歩
2 一〇月四日覚書による法秩序の破壊
3 政治犯人の釈放と恩赦
⑴ GHQ命令による政治犯の強制的釈放
⑵ 釈放政治犯の範囲をめぐる攻防
⑶ 恩赦という形での釈放のねらい
三 プラカード事件―戦後における不敬罪の発動
1 占領権力による天皇制治安機構への打撃
2 プラカード事件の経過と登場人物
⑴ 大衆運動の昂揚と治安当局の巻き返し―プラカード事件の経緯
⑵ 治安当局のねらいと対抗の布陣
3 争点その1―不敬罪の性格
⑴ 不敬罪=天皇に対する名誉毀損の特別罪論
⑵ マッカーサー声明の衝撃と一審判決
⑶ 二審の攻防と二審判決の不敬罪存続論
4 争点その2―不敬罪犯の釈放をめぐって
5 表現の自由と天皇の名誉保護
四 大逆・不敬罪の廃止をめぐる攻防
1 日本側の刑法改正構想の特質と不敬・大逆罪存置方針
⑴ 「応急的改正」としての刑法改正
⑵ 戦前・戦時的秩序維持の志向
⑶ 占領軍の介入に対する日本側の反応の特質
2 占領権力の法改革構想と刑法観
⑴ 天皇制国家・法に対するGHQの認識
⑵ 近代日本の法体系についてのGHQの認識と法改革の形式
3 GHQの介入と天皇制支配層の抵抗
⑴ GHQ指導部の介入による不敬罪廃止
⑵ 大逆罪廃止をめぐる最後の抵抗―吉田書簡をめぐって
4 刑法一部改正の歴史的位置
資料:刑法(明治一三年太政官布告第三六号)(抜粋)
明治四〇年刑法(明治四〇年四月二四日法律第四五号)(抜粋)
Ⅱ 天皇制国家の構造をめぐって
1 日本帝国主義の支配構造―一九二〇年代における天皇制国家秩序再編成の意義と限界
一 国家的危機と、国家体制の再編成
1 問題関心と視角
2 第一次大戦を契機とする天皇制国家の危機―国家的危機の四つのレベル
二 天皇制官僚による国家的危機克服構想の形成
1 国家諸装置による危機克服構想の分立
2 内務省の国家再編構想
⑴ 内務官僚の危機認識
⑵ 内務官僚の国家再編構想の形成
3 司法省の国家的危機克服構想
⑴ 司法官僚の危機認識
⑵ 司法官僚の危機克服構想
三 帝国主義的支配構造の核としての普選
1 一九二五年衆議院議員選挙法のふたつの構成部分
2 二五年法の推進者としての内務省
⑴ 政党の腐敗防止策としての選挙運動規制の先行
⑵ 内務省参事官グループの台頭と普選推進
⑶ 加藤・山本・清浦内閣下の普選準備作業
3 二五年法の制定過程にみる諸装置の役割
⑴ 内務省原案から二五年法まで
⑵ 貴族院と枢密院
むすびにかえて―日本帝国主義の支配構造の特質
1 普選体制の成立
2 未完の体制―その社会的要因
2 近代天皇制・天皇論の課題
はじめに―天皇制論、天皇論の転換
一 講座派的天皇制論の視角と到達点
1 講座派天皇制論の登場
2 講座派的天皇制論の隆盛
二 転換と新しい研究、新たな対抗
1 天皇制研究の転換・その要因
2 近代天皇制研究の転換の兆し
3 近代天皇制研究の転換―天皇制論から天皇論へ
4 新たな天皇制論の試み
5 近代天皇像の形成と受容
三 現代における天皇制研究の到達点
1 天皇の親政的権力行使が示す専制の構造―安田浩『天皇の政治史』
2 輔弼親裁構造と首相奏薦権が示す専制の構造―永井和『青年君主昭和天皇と元老西園寺』
3 天皇の戦争指導が示す専制の構造―山田朗『昭和天皇の軍事思想と戦略』
4 君主専制主義と立憲主義の併存に見る専制の構造―増田知子『天皇制と国家』
四 近代天皇制研究の課題―天皇制論の再構築
1 現代における天皇制論の課題
2 天皇制国家―専制的性格と立憲主義的性格の併存構造
3 市民的自由の抑圧体制
4 大衆社会的統合と天皇制的統合
解題にかえて・論文執筆の頃